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こころにぽっかり穴が開く
陳腐だが、人並みに振られ一晩中寝付けなかったことがある。 その時に感じたのは、胸の中央に風が通り抜けるような、ぽっかりと穴が開いた感覚。本当に、胸の真ん中を風がすうすうと通り抜けていた。まるでルネマグリットの絵のような。 そして、こころにぽっかりと穴が開くという言葉は、本当に胸に穴が開くんだ!作家たちが綴った描写は本当だったんだ!と感嘆した。この感情に言葉を当て嵌めた先人は凄い、と。 ぴいぴい泣きながらor滂沱の涙を流しながら、言葉のイメージの的確さ、豊かさに感動し、そして感謝していた気がする。私たちは言葉があることで、感情を整理し掃き出し、また思考に繋げることが出来る。やりきれない感情が思考となり、そしてまた、次に進むことが出来るのだろう。 あの日の朝日の眩しさをいまだ鮮明に覚えていて。悲しさでは無く、前向きな全肯定するかのような日の光。あれから私は、より朝の光を取り入れるプランを作るようになった気がする。
4月16日
ルーティーンと四苦八苦のあわいにあるもの
ひとつのプランに四苦八苦していた頃に比べ、千本ノックのように年間数十ものプランニングに対峙するようになって、プランをまとめるのが格段に早くなった。ある程度、自分なりの法則が出来上がってきたのだろう。 それはプロとして喜ばしいことでもある一方で、クリエイターとしては、慣れた手法でまとめ、いわば自分の手癖に甘んじている、とも言えるかもしれない。とある有名建築家は、生成AIにその人らしい設計を、とオーダーし、出てきたプランを徹底的に避けるそうな。 ただ施主は、私の作品を見てオーダーしてくれているわけで、全く私らしくないものを作るのも、オーダーに答えていない気がする。私のいつもの手癖に、ちょっとしたデザインの冒険。モノづくりに完璧などないのだから、常にどこかにチャレンジを。良い塩梅で、という心持ちがよいのかもしれない。
4月16日
人は壁の厚みを見抜く
そこに石の壁があるとする。 側面は見えないから、石の厚みはわからない。なのに私たちは、その厚みをなんとなく感じる。分厚い石が積まれているのか、薄い石が張られているのか。その質量を感じ取る。人は言葉にできずとも、空間を感じ取っているのだと思う。 もしかして、壁の向こうの気配や音を推し量っているのかもしれないし、肌が感じる温度でその壁の厚みを感じ取っているのかもしれない。なぜなら、壁が厚ければ厚いほど、音はシャットアウトされるし、私たちが感じる室温とは、壁表面の温度に左右されるから。 それと同じように、その空間を設計した人間の心持も見透かされているのかもしれない。仲間の設計を見ると、どことなく性格が透けて見えるものだ。 それは作家なら、文章から人となりがわかるようなものかもしれない。自身の日々の生活や思考が設計に透けるなら、おろそかにしちゃいけないんだよなぁ、、、とゴロゴロしながら過ぎゆく、穏やかな午後のひととき。
4月16日
贅沢な時間
これまでで一番贅沢な時間を過ごしたのは?と聞かれたなら、美術館の展示室を独り占めしたこと、と答える。 お盆の最中だったか。とある地方の美術館を訪れたところ、人っ子一人いなかった。数階分はあろうかと思う高天井。広大な展示室を満たす柔らかな光。四周の壁に掛けられた大きな絵画。空間の中央にボタン留めの革張りベンチ。 そんな贅沢な空間の中に、たった一人。絵を隅々まで眺めるもベンチに寝転がるも自由。監視員すらいなかった。心ゆくまで対話できること、その空間を独り占めしていることに、ただただ感動していた。 その場所とは、美術館設計では右に出るものがいないと言われる谷口吉生の設計、かつ20世紀最高傑作ともいわれる豊田市美術館。 おかしなことに、なんの展覧会だったか、どんな絵だったかは全く覚えていない。あの空間と時間を独り占めした豊かな気持ちだけが残っている。
4月16日
絵とお喋りすること
祖母が日本画や書を嗜んでいたこともあって、幼少期から、美術館に連れて行ってもらうことが多かった。 また建築学科へ入ると、感性を磨くべく、皆競い合って通った。身構えずに美術と対峙できるようになったことは、とても有難い環境だったと思う。 不思議なことに、同じ絵を見ても、その時の自分の心の状態で全く違う絵に見えたりする。心が沈んでいるときに見える色彩。撥ねるような心持ちで対峙する彫刻。人寂しくて縋る絵筆の跡。 球技の壁打ちのように、自分の思考を絵に投げ、帰ってくる言葉を感じる。もしくは美術そのものの力に打たれて、頭を占領していた悩ましい思考を一気に消し去ってくれることもある。 いわば、美術を通して自分と対話する時間を取るような感覚。時に、たくさんの言葉や感情が渦巻いてしまう頭を鎮めるために、私は美術館に行くのが好きなのかもしれない。
4月16日
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